「申し訳ない、御社をぐちゃぐちゃにしたのは私です。」
唐突な謝罪文から始まるこの本は、MIT卒の経営コンサルタントの方が実体験を元に書いた指南書である。
英訳は「I'm Sorry. I Broke Your Company」だそうだ。
僕は経営コンサルタントでもないし、就活の時には選考で落ちた経験もあるので、本を通じてコンサルタントの仕事の一面を垣間見ることができるのはいいことだと思う。
この本を読んで感じたことを以下のトピックに分けて書いていこうと思う。
◇要旨
◇コンサルタントの苦悩
◇大事なところ
◇面白かったところ
1.人の振り見て我振り直せ
2.「コンサルが去ったあとに残るのは『大量の資料』だけ」
3.問題を自覚しているけれど、変えられない時の救世主
4.「数値目標」が組織を振り回す
◇要旨
この本の要旨はIntroductionの23ページ、本を開いて3分ほどで到達するところに書いてある。
「ビジネスは『数字』では管理できない。なぜならば、ビジネスとは「人」であるが、人間は理屈通りに動かないからだ。逆に言えば、人材のマネジメントさえできれば、あとはうまくいったも同然だ」
抜粋してまとめるとこのような内容になる。
これを本旨に置きつつ、著者の実体験を交えて本書は展開される。
◇コンサルタントの苦悩
「貴社の関係間の連携を強化するお手伝いをします〜(中略)〜仕事を頼んでくれない」
ここにコンサルタントの苦悩が示されている。
著者はブルウィップ効果の原因が、在庫管理の甘さなどではなく、「人間の感情」であると気がついた。
※ブルウィップ効果…サプライチェーンの末端で生じるわずかな需要の変動が、チェーンをさかのぼるにつれて増幅され、最終的には大きな変動となって表れること→要するに、川下の影響が川上に行くほど大きくなるということかな?
つまり、サプライチェーン部門間の信頼関係を構築することなどが肝要であるということだ。
ところが、そのことをストレートに話すと、クライアントは相手にしてくれないという。
仕方なく、「在庫管理システムを導入することが大事です」などど見せかけのトークを引っ提げざるを得ない。
その点がジレンマだというのは知らない内容だった。
◇大事なところ
「ビジネスは『数字』では管理できない」
じゃあ!どうするの?
その問いに対して、著者は「ともかく大事なのは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる」としている。
具体的な回答でないように思えるが、これは「間違い」ではない。
一方、「これって当たり前じゃない?」とも思ったが、「そんなのはもちろん当たり前のことだろう」とばっさり斬り捨てている。
なぜか、この部分が僕の持つ”従来”のコンサルタントらしさを感じ、著者の標榜する”あるべき”コンサルタントの姿と矛盾するような気がして、少し興味深かった。
◇面白かったところ
1.人の振り見て我振り直せ
著者が所属していたジェミニというコンサル会社。
ダウンサイジング(人員削減)の導入で有名だったが、
時代の趨勢についていけず、最終的には自社がダウンサイジングを実施することになったという皮肉な事例。
2.「コンサルが去ったあとに残るのは『大量の資料』だけ」
アイゼンハワーの有名な言葉から始まる。
「戦闘準備において、作戦そのものは役に立たないことを強く思い知らされたが、作戦を立てる行為こそが重要だ」
→ビジネスは予想通りに行かないが、準備をすることで軌道修正ができる、という結論を著者は導き出している。
計画自体にはほとんど意味はないが、計画を立てる過程にこそ価値がある、ということである。
この話をコンサルに当てはめると、
コンサルが残したパワーポイントや報告書をプリントアウトして読むだけでは意味がない。どうしてその結果が出たのか、分析し、頭を絞って考えることが大事。
外部に頼りっぱなしではなく、自社で考えて結論を出せる会社が強い。
「実際、その能力と時間、ノウハウがないからコンサルに任せるんだよ!」というのは尤もな意見であるが、だからこそそれをできる会社は強いし、その人材の価値は高くなると思う。
(大企業だと戦略策定は経営陣。現場との距離が離れることを考えると、会社規模が大きくなるほど難しくなるとは思う。)
3.問題を自覚しているけれど、変えられない時の救世主
著者はある工場の生産効率向上の案件を引き受けた。
現場の作業員の話をよく聞いて情報を集め、自分の頭で考えた結果、経営陣改善案を気に入ってもらえた、というケース。
今回の示唆はコンサルタントの力がここで発揮されるということだ。
今回は、現場の人が問題点を自負しているにもかかわらず、業務のやり方を変える権限がなく、疎外されていたという実態があった。
現場と経営陣の架け橋として、コンサルタントが活躍できた事例である。
少しだけ、今の仕事の状況に当てはまる気がして、不思議な気持ちになった。著者は「一部にメスを入れても意味がない」としている。その通りだ。
4.「数値目標」が組織を振り回す
この章で言いたいことは、「数値目標は手段であって、目的ではないこと」である。
数値目標を立てる
→大半の目標は"なぜか"達成できる
が、目標に見えない大事な部分が見過ごされてしまう。
営業職の売り上げというのは期末で一気に伸びることが多い。理由は、営業職がリベートや値引きを多用するからである。しかし結果的に会社としての利益は落ちる。
他にもある具体例としては
・無茶な目標を課せられていた営業担当が、「返品していいから買って!」といって、今期の目標は達成したが、来期には多くの返品が入り、会社は不良在庫を抱えることになる(その営業はクビになることを覚悟していた)
・修理センターの売り上げ向上を図ったところ、同センターで詐欺が頻発した。直さなくてもいいのに、故障だと告げるようになったのだ。そのことがバレ、会社は大ダメージを受けた。
・バスの運転手に対し、定刻通り運転したらインセンティブを与えるようにした。すると、運行予定に間に合わないペースだと、運転手は乗客の待つ停留所をスルーするようになった。
といったものがある。
数字によるインセンティブはあまりよくない、ということは以前会社のセミナーで聞いた内容だった。
その時はピンとこなかったが、この本を読んで腹落ちした。
要するに、数字を掲げることは大事だが、無茶な設定をしてしまうと、ねじ曲がった目標達成がなされ、結果的に大きなマイナスをしてしまう、ということだ。
「数字は嘘をつかない」というのは半分正解で、半分間違いである。間違い、というのは数字の扱い方に個人的な思惑が反映されるからである。これは「データに溺れる危険性〜里山創生を読んで〜」に通ずるものがある。
自分が上司になって、目標の査定などがあった際には、それが部下にとって達成可能な目標なのかどうか精査する必要があると思った。
また、目標を数値だけにおかずにモチベーションを上げるという点では、ダニエルピンクの「モチベーション3.0」における話が有用に思える。
ウィキペディアやチャリティー活動など無数の利他的活動がヒント。