t_ryo

焼肉が大好きな新卒1年目の社会人。大学時代はWebマーケティング会社で働く。今は某インフラ会社の営業。好きな焼肉は、ダイヤモンドcutハラミ(タレ)、牛タン塩(トラジ新宿店)です。

ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って

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盲腸の事後血液検査で有給休暇をもらった日。
池澤夏樹著の「スティル・ライフ」に手を伸ばした。父からもらった本で昔読んだことのある小説だ。

・あらすじ

ぼくの一人称で描かれる物語。染色工場のアルバイトで出会った佐々井というちょっと変わった男。

仕事のミスをかばってくれたお礼にと、その夜に佐々井をバーに誘い2人で飲んだ。

グラスの水をじっと見つめる佐々井。
「何を見ている?」
「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」
どこか浮世離れした感性を持っている佐々井にぼくは惹かれていき…

・感想

星座の話、天気の話、科学的な話をとりとめのないように扱う2人の会話は小気味よい。

ぼくも数人そういう感覚になれる友達がいる。お互い気を遣うわけでもないが、自然と「合う」関係性だ。

この本を読むとそんな感覚に身を寄せることができる。この本が青春小説といわれる所以か。

面白かった一節として、公金横領を過去にしたという佐々井がつぶやいた場面だ。

「業務上横領の犯人が捕まったという記事を新聞で見るたびにぼくは笑った。彼らは決まって金を使い果たして、懐中わずか数千円というようなみじめな状態で逮捕されている。まるで、早く使って早く捕まった者が勝ちというゲームのようだ。だから、キャバレーで金を撒くような真似をする」
「なぜだろう?」
「わからない。横領したとたんに金というものの汚染力に気付いて、始末しなくてはいけないという強迫観念に取りつかれるのかもしれない。自由になろうと思って盗んだのに、いよいよ不自由になっている自分に気付く。金が重荷になる。駆け落ちした翌日にもう後悔している恋人たちみたいにね。でも、本当のところはわさらないな。」

なんかわかる気がする。
自由になりたいと思って、仮病で休んだけれど、なぜかもやもやした気持ちで早く1日が過ぎ去らないかと、せっかく手に入れた休日を不意にしてしまう、そんな感覚に近い。

というように感想を書いてみたけれど、この本の魅力を表現するのは難しい。たった89ページの青春小説なので、ぜひ手にとって読んでみてほしい。