「詐欺の帝王」から
◇はじめに
◇あらすじ
◇興味深かったこと
◇本藤の強み
◇詐欺がなくならない2つの理由
◇詐欺師は現代の鼠小僧か?
◇感想
◇はじめに
システム詐欺(ヤミ金、オレオレ詐欺など)の帝王と言われた本藤の軌跡を追うルポ。
暴力団関係の書籍で著名な溝口敦さんが書いた本。
大前提として、当書は詐欺を肯定しているものではない。
詐欺を取り巻くグループ、手口、警察との駆け引きなどをベースに、本藤がいかにのし上がったかという、帝王学的側面が強い本である。
◇あらすじ
大学に入学した本藤は、独特の大人びた世界観もあって、イベサーの年長者との付き合いが多くなる。
本藤はイベントの開催を通じて、興行者としての才能を開花させていく。
その経験はお金を引っ張るコツ、組織をコントロールするノウハウ、そして暴力団も含めた濃い人間関係を本藤にもたらした。
卒業後は大手広告代理店(おそらくD通)に入社するも、スーフリ事件の飛び火を被ってグループ会社へ左遷される。
広告会社で一花咲かせることを夢見ていた本藤は失望し退職。
その後、学生時代のつながりからシステム詐欺の道へと足を踏み入れていく…
◇興味深かったこと
・本藤は暴力団でもカタギ(一般人)でもなく、半グレと言われる狭間で暗躍することを好んだこと。
・リスク管理の考え、組織を守る部分で知恵が働く部分
・詐欺の基本は「かぶせ」
※同じ被害者を狙って何度も詐欺を仕掛けること。1度引っかかった被害者は、2度目、3度目も引っかかりやすい。
ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論の適用など学術的側面もあったこと。
※プロスペクト理論…人は損を諦めて、損切りすれば、新たな損を被らずに済むのに、損を回復してプラスマイナスゼロにしたい欲求が強いという理論
・ただでは転ばない、ということ
税務署に追徴を受け、国内に現金を置いておくことを避けようとした結果、マネーロンダリングを考えた本藤。
ドバイに視察に行った際、イラクディナール札(イラク戦争により価値暴落)が使われていることに気がついた。
戦争終了後、価値が爆上がりする、というネタで使えるのでは?と考案したこと。
◇本藤の強み
人間関係構築力…表社会、裏社会に限らず顔のきく存在になっていたこと
×
ハッタリ、自信…暴力団相手にもうろたえず、むしろ食うような姿勢で臨んだこと
×
人心掌握術…側近のもの、末端のもの、組織に属する者の行動管理術
◇詐欺がなくならない2つの理由
2点挙げられている。
1.「儲けたい」「勝ちたい」「隠したい」という欲求…
「儲けたい」という欲求には未公開株詐欺や社債詐欺が、「勝ちたい」という欲求にはパチンコ必勝法詐欺など、「隠したい」という欲求にはアダルトサイト等の架空請求詐欺がある。
…つまり、欲望がなくならない限り詐欺はなくならない、と本藤は締めている
2.日本人にマネー教育がなされていない…
日本人は子供の頃からお金の教育を受けていないから。
医者や弁護士といった知的階級の人でさえ、為替とは何か、株券とは何か、を具体的な形で知らない人が多い。
そのため正常に判断をすることができない。
◇詐欺師は現代の鼠小僧か?
興味深い一文があった
「年寄りが持っている使わない金は死に金だ。おれたち若者が使うことで経済を回して富の再分配をしている。」
果たして本当にそうだろうか?
この答えは終章に書かれていた。
「しかしシステム詐欺の盛行により、詐欺師たちが主張するように、国民所得の再分配が行われたかといえば、そうでないと否定せざるを得ない。このことは巨富を握る事業家がシステム詐欺に巨額を詐取されたという話を聞かないことに明らかだろう。(中略)つまりシステム詐欺は大金持ちのカネに一指も触れられず、日本の資産構造は微動だにしていない。おそらく富商から奪ったカネを貧者に投げ、江戸期に義賊とされた鼠小僧も同じことだったはずだ。盗みや詐欺で構造的な変化をもたらすことはできない。」
結局のところ、詐欺師たちが自分の行動を正当化するための戯言にすぎないのだ。
◇感想
大半は本藤のスケールしていく道程についてだったが、詐欺が行われれる背景や共生者(弁護士や探偵、ex)過払い金申請)など話が膨らんだ。
家族の核家族化、孤立化が老人への詐欺を容易くしているということや、正社員になるのが難しく、こうした闇の世界に足を踏み入れる若者も少なくない、といったことなど、社会に問題を投げかける一冊だった。